第12章 二宮金次郎的農法のすすめ
続パヤオ湖畔・二宮金次郎的農法のすすめ
私と同じくタイ人妻を持つ友人A氏は日本で汗水たらして働き、
タイ国へ送金して貯蓄に励んでいます。
金融自由化になって喜んでいるのです。
例えば日本円1千万円をタイ国で定期にしますと、年100万円以上
の利息が見込めるからです。年100万円の収入があれば、当面10人が
何もしないで1年間生きてゆける勘定になります。
私は、1万円のお金も土地の購入に充てていますので、友人とは
価値観が違うのです。お金の利用方法では意見が合いませんが、私は
決して土地の値上がりに賭けているのではありません。
数年前購入した土地がすでに倍には値上がりしているようですが、
嬉しい現象とは思えないのです。土地は自然が与えてくれた恵みの
基本的舞台でなければなりません。
耕さねば自然を冒涜することになります。 と、偉そうなことを言いながら、私は何一つ農法を知りません。
野菜一つも作れないのです。
そこで、かすかに記憶にある二宮金次郎(尊徳)を思い浮かべて
一族を励まし続けているのです。
…皆が、お父さんに感謝してるよ。しかし、これ以上土地が増えると
耕しきれないのです。もうみんなくたくたなんです。…
今年購入した畑にはトマトやナスが100メートル200メートルと豊かに
実っていました。あらゆる種類の野菜が育ちつつありました。
夕に収穫して朝市に間に合うように売りに行きます。売り上げは皆で
分配します。
今年、降り吹き荒れた異常現象で、果樹園は全滅しておりましたが
野菜のお陰で収入源を確保できたので、皆が感謝していると妻から
報告を受けました。
この瞬間、耕作面積5万坪の目標を10万坪にすると決心して、
その旨を妻に申し渡しました。
これ以上、耕作できない…
妻が目を三角にして食って掛かってきます。私は笑って説明できました。
農法のすすめ2
…オマエハ、頭ダイジョウブカ。心ダイジョウブカ。コレ以上、
畑デキナイヨ。人手ナイヨ。何、考エテル。馬鹿モン!!…
とほほほ・・妻の日本語の先生は私です。私の口調をそっくり真似
ていますので、男言葉なのです。
私は天保の大飢饉を思い浮かべています。江戸時代が崩壊する
前兆となった百姓の困窮・一揆に明け暮れる貧農の生活を想定して
います。二宮金次郎(尊徳・*)ならどんな手を打つだろう。
かって、日本製品(日本では三種の神器)がアジア市場を独占し
たとき、不買運動が起きました。その原因はほとんど日本では報道
されなかったのではないでしょうか。
タイ国、特に北部では、その日暮らしで十分に生きていた人達が、
わずかな田畑を担保に日本製品に飛びつきました。もちろん返済能
力などありません。気がつけば全てを失い、娘たちを売らざるを得
ない状況に陥っていました。悲惨な人身売買でも成功者が量産され
て「日本神話」となり、いまだにその余韻の中に、北部はゆれてい
るように思われてなりません。
* かく言う私は、ほとんど二宮金次郎(尊徳)のことを知りません。
昔、暇つぶしに記録を読みましたが、私の印象では日本で始めて
「消滅時効の概念」を発見し実践した人ではないかと思った程度です
又、茨城県の関城町の農家で「二宮金次郎」署名入りの「農機具
の貸借」と思われるような書き付けを拝見させていただいたことがあ
ります。
…冗談ダロー、本当、オ前ノ頭、ダイジョウブカ…
妻は、私の提案を呆気に取られたまま理解してくれません。
私の計画を披露する前に、もう少し北部タイ、パヤオ湖畔界隈の
風聞を記します。
車で湖畔を一周する車窓から、あちこちに豪邸が見え隠れします。
あれは「麻薬御殿」だの「外国人の妾の館」だのと話題になります。
日本では億単位の価格と思われる屋敷が点在する裏路地には、
きまって吹けば飛ぶようなバラック建が寄り合っています。
日中、赤子のいる家以外、あばら屋からはほとんど音が聞き取れま
せん。夫婦の一方が外国に出稼ぎに行っているとかはましなほうで、
娘から仕送りが途絶えたとかの怠け者の片親や汗を流すのを嫌って
泥棒稼業に精出す者から一カク千金を夢見て世に這い上がろうと
する薬の売人達が何食わぬ顔で潜んでいるようです。
多くの人達が自給自足できる程度の田畑さへ失い、あげく無気力
に陥っているように思えてならないのです。
私の決意は、土地を増やしてそんな人達に農機具と農地を提供し、
その収穫から一割程度を利息分として受け取る案なのです。
収穫がないとき或いは利息のかわりに、直営農地の草取りや田植え
などの労働力に充てることも考えました。労働力の「貯蓄」という
方法がかって存在したかどうかは知りませんが、労働力の「貸借」
は可能なような気がするのです。
…ソレジャ、ゴマカサレルヨ。ヤルナラ、お金ヲ、取ルヨ…
・ ごまかされていいのだ・・
円・ドル・バーツ・お金がなければ何もできない?金権時代から
私は、お金のありがたさと無用さを同時に味わってみたく時代錯誤
の世界へ身を置く決心を固めたのでした。
私の天の邪鬼は、時にとても頑固になります。