第5章湖畔の宿凍てつく奢り

パヤオ・湖畔の宿・凍てつく

タイ北部の寒村では、川魚は貴重な蛋白源となります。釣りの役目は

子育てを終えた女性の役目のようです。えさになる小えびや川虫を川に
入って取るのも皆女性です。

湖畔の宿から、車で5分ぐらいのところに乾季に備えた灌漑用水池
があります。この池でも、毎日中年から老婆までが釣り糸を垂れます。
その年配者に混じって釣りをしているとき、背後に車の停まる音がし、
続いて男女のペアらしい日本語が聞き取れました。
・・こんなところで、釣りをしてるわよ。
堤の斜面を下りてくる足音に、なぜか私は鳥肌だち、灼熱の太陽の下
凍てついてしまいました。
・ ・なにが釣れるのですか
・ ・聞いたって、わかりっこないわよ。
・ ・女に釣れるのかなあ
・ ・あらあら、竹竿よ。釣竿も買えないのかしら-------
釣り人達が私に向かって、何やら言葉を発しますが、私はウキを見入
ったまま動けないのでいました。
夕暮れになって、帰宅の準備、後片付けが始まります。
私の分まで、なぜか女性群が手伝ってくれます。
車の荷台で、とつぜん涙が吹き出すと、一人がぬぐってくれます。
汚いタオルには川魚の匂いが染み付いていました。


パヤオ・湖畔の宿・奢り

私が4時起きして、夜明け前の1、2時間をぼんやりと軒下のチェ
アにうずくまっているのが、日本人の不思議と思われたらしく、宿の
女主人が朝食まで横になっていれば、と忠告してくれます。
・ ・私はロシアにいてもハワイにいても、4時には目覚めます。私の
習慣ですからどうか、気にしないで・・と言いかけて口を閉ざします。
ほっといてくださいとはいえません。ぼんやりに退屈すればとぼとぼ
歩き出すのが日課ですからともいえません。
外国では、勤勉で金持でなければ日本人ではないといった誤解を
釈明したところで、そっぽを向かれる時代の背景があります。
貧困は日本の「円高」にあこがれ、日本に密航?し、円をつかんだ
者がステータスになる実例があまりにも多く存在します。
それで、奇妙がられても礼に反しますので、勤勉の証に雑草取りで
もするか、と方針を変えることにしました。
すると、草を抜かないで、とメイドが悲しい顔をします。
放し飼いの鶏どものえさになるのかと理解して手を休めます。
それでは、伸び放題の木々の枝を剪定してやろうと勇みます。
またメイドがやってきて悲しい表情を、枝にまたがった私に送って
くるのです。
その朝、不機嫌な気持ちで食につきますと、皆が食している野菜は、
私が抜いた雑草?なのでした。
木々の枝がぼうぼうと伸びているのは、1センチでも多く木陰を
作る工夫の果樹だったのです。
自然の恵みを最大限に利用する原始的知恵に驚嘆し、私は自分の
奢りをどうすれば捨てられるかを思案しなければならないのでした。